これから寒くなり風邪がはやる季節になりました。風邪をひいたとき、抗生剤は効くのでしょうか?抗生剤による耐性菌のことや副作用についてご説明したいと思います。
抗生剤はウイルスに効果なし
抗生物質(抗菌薬)には細菌を殺す効果があり、感染症の治療に欠かせない薬です。風邪にも広く使われており、全国の医療機関のレセプト(診療報酬明細書)データでは、上気道炎(風邪)の6割以上に抗生物質が使われていました。
しかし、風邪の原因の9割は、細菌よりはるかに小さいウイルスで、抗生物質は効きません。これは、患者に薬を使用した海外の多くの研究で確かめられています。
実は、多くの医師もこのことは知っています。それなのに抗生物質を処方するのは、風邪をこじらせて肺炎などになるのを防ごうと考えているからです。
しかし、肺炎などの予防効果もほとんどないことが、様々な研究で明らかになっています。
中耳炎や気管支炎、肺炎など細菌感染を併発したときには抗生剤は効果があります。
日本ではまだ一部の方に「風邪は抗生剤で治るもの」といった間違った認識があります。
海外、特に欧米ではウイルス性風邪に抗生剤を処方しないことが常識となっています。
抗生剤乱用による「耐性菌」
抗生剤をむやみに使用すると、菌が抗生剤に対する「耐性」をつけ、「耐性菌」ができてしまうリスクがあります。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という菌を耳にしたことがありませんか?
MRSAは、抗生剤の過剰な使用により菌の性質をどんどん変化させるため、抗生剤に対して抵抗力を持ってしまいます。この菌に効く薬は限られており、またその薬に対しても耐性を持つ菌ができてしまうと治療に難渋します。
胃潰瘍や胃がんの原因とされるヘリコバクター・ピロリ菌も近年除菌成功率が低下しています。原因は、抗生剤の乱用で耐性菌が増加していることが考えられています。
抗生剤による「副作用」
肝臓や腎臓などに負担がかかる
抗生剤は肝臓や腎臓で代謝されるため、肝臓や腎臓に負担をかけることがあります。それにより、肝機能や腎機能が低下する可能性があります。また、抗生剤投与によりアレルギーが起こる可能性もあります。
ごく稀ですが、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)という発熱、皮膚炎、眼の充血などをきたし失明や死亡することもある重篤な病気を引き起こすことが知られています。
「腸内細菌」のバランスを崩してしまう
抗生剤を飲んで下痢したことがあるという人も少なくないと思います。抗生剤は菌を攻撃するので、腸内の善玉菌も攻撃を受けます。
抗生剤を使用すると、腸内フローラ(腸内細菌叢)が崩壊して下痢を起こしやすい状態になります。腸内細菌が安定していない幼少期の抗生剤投与が潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の発症率を上げているという報告もあります。
抗生剤により腸内細菌のバランスが崩れると、腸内のクロストリジウム・ディフィシル菌が勢力を伸ばすこともあります。そうなると増殖したこの菌が産生する毒素により、クロストリジウム・ディフィシル腸炎を発症します。
この腸炎は通常の薬では治りにくく、治療に難渋することが少なくありません。
まとめ
風邪はウイルスが原因なので抗生剤は効き目がありません。
中耳炎や気管支炎、肺炎など細菌感染を併発したときには抗生剤は効果があります。
抗生剤は適正に使用しないと様々な副作用やリスクがある両刃の剣ということは、頭に入れておきましょう。
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